寺山修司の青年時代の同人誌、『牧羊神』が入荷しました~俳句の社会性とは⁉

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 コロナ禍で外出を控えざるを得なくなっておりますが、そうした中でもギャラリーや博物館等の意欲的な試みが報じられています。たとえば、劇作家、詩人、歌人、映画監督など多岐にわたる活躍で知られる、寺山修司(1935-83)にまつわる資料を収集・展示する、岡山県津山市の「津山 寺山修司館」が、2020年12月10日に開館したとのことです。そこで、この報道に寄せて、くまねこ堂で最近入荷しました寺山修司に関する文献を紹介していきます。

※岡山・津山に「寺山修司館」オープン 劇団携わった女性が自宅改装 関連資料350点展示(山陽新聞デジタル、2021年1月6日)
https://news.yahoo.co.jp/articles/46accaec476e633f151ee442c51ff650a4fc999c

寺山修司『牧羊神』

 こちらは、寺山修司の高校生時代の1954年2月に創刊された同人誌『牧羊神』の第10号(1955年9月)と、ほぼ同時期の『早稲田詩人』1955年11月号です。寺山は1951年に青森高校に入学し、1954年に早稲田大学教育学部国語国文学科に進学しています。『牧羊神』の由来は、ギリシャ神話の羊飼いと羊の群れを監視する神パーンの意訳ですが、ここから転じて接頭語のPan(汎)となったともいわれています。創刊にあたって寺山は、「全て」を扱う意気込みを表現しようとしたのでしょうか。そのように想像するのは、『牧羊神』の冒頭に「PAN宣言」という序文欄が設けられていることによります。

 『牧羊神』第10号ですが、この号には、寺山による「雉子ノート 断片的に、その一」があります。ここには、俳句の社会性をめぐって、寺山が自身の鋭い感覚を表現した部分があります。

寺山修司『牧羊神』

 「社会というものは抽象体である。言い方を換えれば社会ということばは抽象されている。社会の中には無論自己がふくまれるわけでもしそうでなければ俳句の社会性などは花鳥諷詠と同意になるわけだ。それで、社会を批判する、ということは自己を批判することにならねばならぬのに、人は社会の貧困、あるいはカミュのいわゆる不条理の起因を何かにもたせて抗議している。つまり不在の神に泣きごとをならべているのにほかならないし、ビキニの灰にしてもそうだ。」

 ビキニの灰とは、アメリカが南太平洋のマーシャル諸島で1954年3月に実施した水爆実験を指します。寺山は、目の前の具体的に知覚できた危機について、実在の他者を攻撃する、という関係性に一定の理を認めるといいます。しかしながら、それでは作品は生まれないと述べるのです。その上で寺山は「しかしほんとうの意味で社会性があり得るならば、それは感覚できた不安をメタフィジックに謳うことだ」と結論します。この短い紙幅に寺山は、傍観者であることをやめて自己を含んだ社会をどのように認識するか、そしてその上で社会に対して批判的であるというのはどういう姿勢か、さらに上記のことを表現する、とは何をすることなのか、と難問を詰め込んでいます。この問題提起を受けて私たちがどのように考えるかが問われますが、とても今回の投稿で取り組める課題ではありません。

 ところで、『牧羊神』第10号の寺山のプロフィールには、「ネフローゼにて二月よりベッドで生活している」とあります。『短歌研究』(編集長:中井英夫)にてデビューしたばかりの寺山に重病が襲います。ネフローゼとは、血中の蛋白が減少し、それによって全身に浮腫が発生し、腎臓や循環器系の疾患を招く厄介な病気です。この時期の寺山については、『新潮日本文学アルバム』第56巻(1993年刊)に次のような記述があります。

「短歌界に躍り出た頃から、すでに高校在学中にその兆候があったネフローゼの症状が出て、昭和三十(1955)年6月にはそのため新宿区の社会保険中央病院に入院した。一時危篤になるほど症状は重く、生活保護を受けて治療にあたった。」

寺山修司『牧羊神』

 寺山が俳句に没頭した時期は長くはありませんでした。『牧羊神』発行人の林俊博によれば、1955年9月刊行の同誌第10号から間をおいて、1957年3月に刊行された第11号(林は「復刊」と呼んでいます)を寺山に届けたところ、寺山から何ら反応がなかったと回想しています(※)。たしかに、これ以降の寺山は、ストーリー性のある制作活動に熱中していくようになります。

(※)『没後二〇年 寺山修司の青春時代展』(世田谷文学館、2003年)118頁、前掲、『新潮日本文学アルバム』第56巻。

 『牧羊神』は、短期とはいえ寺山の青年時代を形づくり、そして生涯にわたる影響をおよぼしたであろう一時期の、貴重な資料といえましょう。くまねこ堂では、古書に限らず幅広い品々を対象としております。1回の出張買取で広くカバーしてまいりますので、お電話またはメールフォーム、LINEにて、お気軽にお問い合わせ下さいませ。

 スタッフ一同心よりお待ちしております。

小野坂


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