「ジャパン・ツーリスト・ビューロー」の機関誌、『ツーリスト』が入荷しました~1930年代の満州旅行に関する英文記事について

 先日は 品川区南品川のお宅へ買取りにうかがい、勲章、春画、備前焼、九谷焼、アクセサリー、テレカをお譲りいただきました。ありがとうございます!
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 ところで、新型コロナウイルスの感染拡大は、一向に終息する気配を見せません。その一方で、政府は「Go To トラベル」キャンペーンなる政策を掲げて、旅行を推奨しています。日本全国で困惑が広がっていることが想像されますが、その困惑度合いを体感するのに恰好の記事がございます。それは、「旅行に行きなさい」と題された、長崎新聞の2020年7月16日付の記事(https://this.kiji.is/656296522741711969)です。その冒頭を引用します。

 「「動詞」で始まるのは命令形。初歩の英文法だ。だから、直訳すると〈旅行に行きなさい〉。観光旅行はいつから政府に命じられて出掛けるものになったのか、と揚げ足の一つも取りたくなる。「Let’s」でも「Shall we」でもない旅へのいざないに、延期や再考を求める声が広がる」

 「Go To 」では命令文だという同記事の指摘は至極もっともなことです。しかもどこへ行けというのでしょうか。「トラベル」というまだ見ぬ約束の地でもあるのだろうか、と勘繰りたくなります。しかも、観光の促進だというのに、日本人にすら理解できない和製英語が氾濫している現状について、政府はどのように認識しているのでしょうか。とくに英語については、1930年代の観光業界の気合と比べるならば、「Go To」の私たちは恥ずかしい限りです。

 そこで、有望な旅行先として、場所ではなく時を移す形で、1930年代の日本を候補地に提案したいと思います。とはいえ、場所についても現在と過去との間で差異があります。1930年代の日本は、現在の日本より範囲が広いので、初めて知ることも多いかもしれません。そのため、「過去の日本の範囲」に関わる話題で、1930年代の日本への旅をご案内していきます。乗物は、下記画像に掲げた、気合の入った雑誌です。

 ツーリスト

 これは、最近くまねこ堂に入荷した、「ジャパン・ツーリスト・ビューロー」の機関誌、『ツーリスト』です。赤の背景に樹木の影、その間に金箔で鳥と夕日が浮かんでいます。オシャレです。さらに、和文欄と英文欄を備え、和文は日本人国内旅行案内、英文は外国人観光客に向けての日本の旅行案内であることに、旅行促進にかける『ツーリスト』寄稿者たちの気合を感じずにはいられません。たとえば、英文記事には次のようなものがあります。

 1933年の『ツーリスト』(第21巻9号)の英文欄は、満州と朝鮮半島の特集となっています。その第一論文である、高久甚之助「観光国としての満洲」は、旅行案内らしく、満州国の地理的広大さを中心的な話題としています。しかし満州国が「観光国」である所以は、単なる地理的条件のみにとどまらないことも、この論文からうかがえます。事実、高久は、遼東半島の旅順港について「日露戦争で有名」と書き添えています。なぜ、このような文言が挿入されているのでしょうか。

 上記の「日露戦争で有名」との修飾の意味合いは、以下の様な同時代的背景とあわせて考える必要があります。1930年代半ばの日本は、交通網の発達もあり、国内旅行どころか、外地の朝鮮や満州への旅行が盛んでした。実は、その観光先として強力な、あるいは鉄板のコンテンツとなっていたのが、日清・日露戦争の戦勝記念史跡だったのです。こうした歴史的かつ業界的背景が、外国人向けに書かれた英文記事の中にも顔を覗かせているのが興味深いところです。

 こうした点については、以前本ブログでも取り上げました、「三十周年記念 日露戦役回顧写真帖」「三十周年記念 日露海戦回顧写真帖」(日露戦争(1904-1905年)の30年後にあたる、1935年に陸海軍の親睦団体および東京日日新聞社・大阪毎日新聞社によって刊行されたもの)との関係でふれたことがあります。下記リンクよりご覧いただければ幸いです。

※日露戦争を記念した写真帖、絵葉書などをお譲りいただきました!~その1 昭和戦前期の観光業の隆盛と戦跡めぐり(くまねこ堂骨董ブログ、2020年5月4日)
https://www.kumaneko-antique.com/15955/

 上記で述べたような、観光業と戦争とのつながりの予感が、1930年代の日本への旅を提案した理由でした。さらに『ツーリスト』を精査していくことで、より良い旅となることでしょう。なお、『ツーリスト』の所蔵状況は、いくつかの公共図書館に点在しているのが実情です。現物も必ずしも容易に購入できるものではありません。復刻版もありますが、個人で手が出せる金額というわけでもありません。

 現在、くまねこ堂には、1932年の第22巻第6、12号、1933年の第21巻第6、7、9号、1934年の第22巻2、9、11、12号、1935年の第23巻第2号、1936年の第24巻第3号の計11冊がございます。お電話またはメールフォーム、LINEにて、お気軽にお問い合わせ下さいませ。スタッフ一同心よりお待ちしております!

小野坂


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