(続)昭和戦前・戦時期の工芸品に関する輸出の奨励やデザインの研究に関する雑誌・公的機関の報告書などが大量入荷しました~日中戦争期における工芸品の使命とは⁉

 先日は、埼玉県越谷市のお宅へうかがい、カメラ、コイン、銀貨、鉄瓶、木台のペコちゃん、中国切手などをお譲りいただきました。ご依頼いただきまして感謝申し上げます。
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 先日の投稿で、昭和戦前・戦時期の工芸品に関する輸出の奨励やデザインの研究に関する雑誌が入荷しましたことをお知らせしました。そこで、1926年(大正15年~昭和元年)に設立された産業デザインの振興団体の帝国工芸会を手がかりに、当時の国際情勢もあわせて、買取品を紹介しました。そのことによって、工芸品のデザインと政府の輸出奨励政策との関連性が見えてきました。

※昭和戦前・戦時期の工芸品に関する輸出の奨励やデザインの研究に関する雑誌・公的機関の報告書などが大量入荷しました~芸術と経済政策の交点(くまねこ堂骨董ブログ、2020年9月24日)
https://www.kumaneko-antique.com/16768/

 そのようなデザインと経済政策の交錯が生まれた背景を前回で扱ったわけですが、今回はその後の展開を追っていきます。前回もふれたとおり、帝国工芸会は古代中国の工芸品調査に力を入れようとして、1931年7月に調査団体の啓明会と共催で講演会を開きました。この時期には、古代工芸品をめぐる国際文化交流つながるような可能性もあったのです。あわせて当時の経済思想との関連で見ても、国際通商の発展は国際平和への道とも考えられていました。しかるに、このような動きに水を差すように、約2か月後の9月18日、満州事変が勃発しました。

 とはいえ、輸出振興という目的で産業デザインの研究が国策といったん結びついた以上、工芸品は戦争と無縁の地位にとどまることはできませんでした。それどころか、1937年7月より始まった日中戦争が泥沼化していくに従って、工芸品は戦時の国策に結びついていきます。そのような中で工芸部門には、優れた加工技術の担い手として資源の少ない日本の戦争を支える、という使命が与えられたのです。

 注目すべきなのは、1939年8月、商工業振興機関の東京府立工業奨励館が、『工業奨励』という機関誌を創刊したことです。このことは、戦時経済における工芸品の役割がどのように考えられていたのかを紐解くにあたって、重要な出来事といえます。

『工業奨励』

 上掲の画像のとおり、お譲りいただきました『工業奨励』第1巻の表紙には、鉛筆で「工芸部の使命」と書き込みがあります。これは収録された記事のタイトルです。著者は東京府立工業奨励館工芸部の主任技師・大宮秀次。彼は次のように述べています。

 「云ふまでもなく資源に恵まれない我国に於ては少量原材料を以て其の加工技術の優秀さを高く海外に売ることは最も有利なると共に必要なる工芸の要諦であり又工芸品が海外市場にて其の国の製品との摩擦も少いと云ふ好条件にあることも我が工芸の将来性に弾力性を有するものと考へられる。」

『工業奨励』

 この引用のみを取り出すと、必ずしも戦時経済との関連は見えてこないかもしれません。しかし、日中戦争を継続する上での財政的裏づけがどのようなものであったか振り返るとき、この大宮秀次の認識は重要な意味を持ってきます。というのも、戦線を拡大し続けた日本は、軍需品輸入の激増に直面したからです。しかもその決済には、米ドルや英ポンドといった外貨が不可欠でした。

※松浦正孝『日中戦争期における経済と政治―近衛文麿と池田成彬』(東京大学出版会、1995年)

 そのため、中国との戦争の出口を見失いつつあった日本政府は、世界大恐慌の衝撃からの立ち直りで効率化を図った工芸品部門に、またもや底力を発揮してもらおうとしました。この底力を動員して、アメリカやイギリス帝国圏との通商で黒字を獲得していったのです。こうした事情で日本は、繊維製品をめぐってイギリス、インド、オーストラリア、カナダといったイギリス帝国諸国との貿易摩擦を次々に引き起こしていきました。大宮が「其の国の製品との摩擦」を気にしていたのは、こうした現状について述べたものと考えられます。

 だから、「工芸部の使命」とは、そのような摩擦を回避して黒字を稼ぐことだったのです。

『工業奨励』

 また、この『工業奨励』第1号には、日本における「労働科学」の第一人者の日本労働科学研究所員・桐原葆見(しげみ)の「現在の設備と人員とで二割増産を期せ」も収録されています。前述の工芸品の輸出奨励策あわせて、この工場労働の合理化論を読むならば、「戦時日本」に「高度成長期の日本的経営」が見え隠れしてきます。

 これ以降の号も入荷しておりますので、お電話またはメールフォーム、LINEにて、お気軽にお問い合わせ下さいませ。第12号(1944年3月)か国立国会図書館にも所蔵がないようです。

※国立国会図書館サーチ キーワード「工業奨励」
https://bit.ly/3j0ir4Z

 スタッフ一同心よりお待ちしております。

小野坂


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