日中戦争期の額装品やアルバムをお譲りいただきました! あわせて日中戦争研究の必読書、戸部良一『ピース・フィーラー――支那事変和平工作の群像』(論創社、1991年)が入荷しました!

先日は江東区古石場のお客様より                                   腕時計、オメガ、SEIKO、Nikon双眼鏡、カメラ、古銭等をお譲りいただきました。
ご依頼誠にありがとうございました。

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いつもくまねこ堂ブログをご覧いただきありがとうございます。 

 日中戦争(1937-45年)に関する書籍など、近代日本史の研究書が最近入荷しました。2017年は勃発から80年ということで各所でシンポジウムが開かれましたが、さらに近年の研究成果をふまえた書籍が続々出版されています。他方で、それら先端的な成果の土台となってきた、不朽の名作を改めて読み直す必要も感じています。

 そこでご紹介したいのは、次の一冊です。

戸部良一『ピースフィーラー』

戸部良一『ピース・フィーラー――支那事変和平工作の群像』(論創社、1991年)です。本書は、日中戦争の終結に向けた「和平工作」の実態を一次史料(当時の公文書や当事者の日記など)に基づいて詳細に分析し、この分野の研究水準を一段と引き上げた一冊です。それまでの研究にも重要なものはありますが、それらは旧軍人の回想録や証言をもとに行われていたという、史料上の制約は否めません(※)。ともかくここで確認したいのは、次の実感です。歴史研究の軌跡を振り返って感じるのは、その時々の史料の公開・整理の状況によって、その段階での最善が尽くされているということです。

※この点については、 衛藤瀋吉著作集編集委員会『衛藤瀋吉著作集〈第2巻〉東アジア政治史研究』(東方書店、2004年)の巻末の座談会記録を参照ください。くまねこ堂で現在出品中です。
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 さて、『ピースフィーラー』のハイライトのひとつには、初期の「和平工作」の中で最も有望視されていた、ドイツの駐華大使トラウトマンによる日中間の仲介(トラウトマン工作)が挙げられます。日中戦争すべての時期にわたって戸部氏は、「和平工作」の争点を整理していますが、それをふまえて初期段階のトラウトマン工作が有効性が浮かび上がっているのです。その後は、トラウトマン工作に比すならば、失敗の連続といわざるを得ない展開が待っていました。いかに「ピースフィーラー」と呼ばれる非公式接触者が奮闘しようとも、事態は混迷を極めていったのです。つまり、日中戦争が泥沼の戦争であったことが、こともあろうに戦争の収拾のための努力の歴史である「和平工作史」によって示されているのです。このことに私は衝撃を受けました。

 こうした日中戦争の「和平工作」の研究は、軍事・外交両面にわたる深い知識が不可欠となります。とりわけ、一次史料を駆使した研究を成し遂げるにあたってはなおさらです。このことは、戸部氏が本書以後に発表した研究成果によっても裏づけられます。

戸部良一 日本陸軍と中国、外務省革新派

『日本陸軍と中国――「支那通」にみる夢と蹉跌』(講談社、1999年)、(『外務省革新派――世界新秩序の幻影』(中央公論新社、2010年)がそれにあたります。

 近年の「和平工作」研究は、これまで詳細に分析されていなかったある側面が注目されています。通常は、中国側の主要なプレイヤーとしては、蒋介石を中心とする重慶政府、日本側の工作によって成立した、汪兆銘率いる南京政府、ゲリラ戦を遂行する毛沢東が指導する共産党という三者が想定されます。しかしながら、対日協力者は汪兆銘だけではありません。日本側はそれぞれの経路で、数多くの対日協力者を求めて動いていました。しかも、そうした別個に進められた行動は、統制がとれないままでした。

 おそらくは、それぞれの部隊に別々の支援者がいる状態で、対日協力者を一本化することは、日本軍にとっては誰かの立場を切り捨てることになります。日本軍はそれを恐れたがゆえに、「和平工作」の一本化を果たせなかったのではないでしょうか。しかし、それぞれの部隊による工作の乱立を放置していたら、どうなるでしょうか? 決定的な瞬間に、中国に駐屯している日本軍内部で齟齬をきたすことにもなりかねません。まして、東京の中央政府における、人事異動や内閣の交代という問題もあります。在外の駐屯軍と中央政府との行き違いも考慮すると、日本側で「和平工作」の全体像を把握していた人物がいるのかどうかさえ、疑わしくなってきます。事実、「和平工作」の経過は、そのような混乱を含んでいました。

 そのような日本軍の日中戦争に際しての戦略のちぐはぐさを分析する上で、汪兆銘だけではなく、他の対日協力者(中国人からすると漢奸と呼ばれた人々)の詳細に光を当てようとする試みが、近年なされているのです。次回の投稿では、そうした研究の一端と、最近入荷した日中戦争に関する額装品とアルバムを紹介していきます。

小野坂


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