シベリア出兵に従軍した第7師団歩兵25連隊の行軍を記録した鉄筒をお譲りいただきました!

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 以前の投稿で、日中戦争期の額装品について扱いました。それは、日中戦争の勃発を受けて中国北部の北京・天津地方に派遣された日本軍に所属する、安治県豆張荘警備隊長であった石井泰作に対して、1937年11月付で贈呈されたものです。その送り主は、天津市内の武清第三区地方治安維持会(主席委員:黎子明)となっています。ここに描かれているのは、北京の萬壽山の全景です(※)。

(※)日中戦争期の額装品とアルバムをお譲りいただきました! ~その2 武清県治安維持会とは何か? 傀儡政権?!(くまねこ堂骨董ブログ、2021年4月26日)
https://www.kumaneko-antique.com/17371/

 今回は、上記の石井泰作警備隊長の、日中戦争以前の従軍に関する記録について紹介します。その記録は、謄写版で用いられる鉄筆かそれに似たような刃物で、文字が鉄の筒に刻まれたものとなっています。

シベリア出兵

 画像では文字が判読しづらいので、冒頭部分を、適宜句読点を補って以下に転記しました。

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   歩兵第二十五連隊第二大隊行動詳記
大正六年五月十二日鉄嶺駐箚地着。翌七年八月九日午後十一時応急準備下令。同年同月十六日午後二時三十分鉄嶺出発
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シベリア出兵

 歩兵第25連隊は、北海道に置かれた常備師団の第7師団に属しています。鉄嶺とは中国東北部、満州の都市ですが、ここに歩兵第二十五連隊が大正6年(1917年)5月12日に到着したという記述から、この記録は始まっています。1917年といえば、ロシアで二度の革命が起こり、帝政が転覆されて、共産主義勢力を中心とするソヴィエト政権が樹立された年になります。その翌1918年8月9日に、「応急準備」という命令が歩兵第25連隊に下されたというわけです。いったい何の「応急準備」だというのでしょう。

 続く鉄筒の記録を確認してみましょう。1918年8月16日に鉄嶺を出発した歩兵第25連隊は、それ以降、長春、哈爾浜、海拉爾、を経て満州里に8月22日に到着したと記載してあります。この時期と地名から、何の「応急準備」かといえば、疑いもなくシベリア出兵です。

 シベリア出兵とは、ロシアの共産主義に基づく革命勢力による国家建設を妨害すべく、イギリス・フランス・アメリカ・日本など第一次世界大戦の連合国が、共同でシベリアに軍隊を派遣したことを指しています。日本政府は1918年8月2日、シベリア出兵を宣言しました。それを受けて満州に駐屯していた歩兵第25連隊が「応急準備」に入ったことを、再度確認しておきます。共同派兵で認められていたウラジオストクからのルートではなく、この満州からシベリアに侵攻する作戦は、日本軍の独断によるものでした。

麻田雅文、マーティン・メイリア
▲麻田雅文『シベリア出兵――近代日本の忘れられた七年戦争』(中央公論新社、2016年)、マーティン・メイリア『ソヴィエトの悲劇(上巻)――ロシアにおける社会主義の歴史1917~1991』(草思社、1997年)【セット本で出品中!https://amzn.to/33ge7Ip

 ところで、「出兵」というと単に出かけていったような軽い感じを受けますが、実態はもちろん物見遊山ではありません。The Allied Intervention in Russia 『ロシアへの連合干渉』と近年刊行された本のタイトル(※)となっているように、第一次世界大戦の連合国による対ロシア干渉のための戦争と呼ぶほうが、現実に即しています。当然ながら、この干渉戦争は、ロシア人からみたら、外国の軍隊に祖国を蹂躙されたという事態にほかなりません。

※Ian C. D. Moffat, The Allied Intervention in Russia, 1918-1920: The Diplomacy of Chaos (London: Palgrave Macmillan, 2015)

 なお、英語版ウィキペディアでは、日本の「シベリア出兵(Siberian intervention)」と、連合国全体の軍事行動を扱った項目が別々になっています。後者はAllied intervention in the Russian Civil War(ロシア内戦への連合干渉)というタイトルで、日本語ページはありません。この事実をもってしても、「シベリア出兵」という用語が、どれだけ世界標準の認識から離れているのか感じられると思います。

 このように述べたからといって、日本に即した認識がただちに間違っているといっているわけではありません。特殊日本的な「シベリア出兵」と、国際関係の視点からみた連合国による「ロシア内戦への干渉」といった認識の落差に注意する必要があるということを、歩兵第25連隊の足取りを追って気づきました、と報告したかったのです。歩兵第25連隊がたどった、満州からシベリアに侵攻する作戦は日本軍の独断であったと先に述べましたが、こういうところにも、日本の「シベリア出兵」と連合国による「ロシア内戦への干渉」の違いが出ています。

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小野坂


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