宮本晃男『自動車と戦車の操縦』(育生社弘道閣、1942年)~国民は全員自動車を運転しろ/物資がないから民間用の自動車は製造しない!? #戦争 #石油

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 ロシアのウクライナ侵攻において、市街戦が激化の一途をたどっています。1914年に勃発した第一次世界大戦以来、戦争が軍人も民間人も関係なく暴力と悲劇の連鎖に巻き込んでいく度合が増してきています。ウクライナからは遠く離れたように思われる日本も、グローバル化した経済の一部ですから、今回の戦争と無縁ではいられません。経済メディアのブルームバーグによりますと、「ロシアは西側諸国の制裁に対抗するため、一部の物品や原材料の貿易を禁止・制限する命令を出した」とのことです(※)。産油国ロシアの判断は、エネルギー資源を輸入に頼っている日本の運命を左右する影響力があります。

※【ウクライナ】ロシア軍のキエフ砲撃激化、北東部スミの住民退避(ブルームバーグ、2022年3月8日)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2022-03-08/R8ELTCT0AFBD01

 そこで、反戦の意思表示として、このブログでも戦争の恐ろしさをいくらかでもお伝えしようとしてきました。3月5日の古書ブログのほうでは、第二次世界大戦に関する研究書を紹介しました。そこでは、近代兵器の恐ろしさと、そこに人間の妄想や狂気が結びついたときに生じる暴力についてふれました(※)。骨董ブログのこちらでは、戦時中日本で発行された自動車と戦車の本を取り上げていきます。

※イアン・カーショー『運命の選択1940-41』河内隆弥訳(白水社、2014年)が入荷しました #第二次世界大戦 #ウクライナ危機 #歴史認識(くまねこ堂古書ブログ、2022年3月5日)
https://www.kumanekodou.com/28904/

 宮本晃男
 宮本晃男

 宮本晃男『自動車と戦車の操縦』(育生社弘道閣、1942年)です。著者の宮本晃男(てるお)は、1907年生まれ(1992年没)の航空機、自動車の技師、評論家としてこの分野で膨大な著作をものしています。まずは『自動車と戦車の操縦』の「緒言」を確認してみましょう。

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 国民皆兵の国に生を享け、時将に大東亜共栄圏の確立と世界平和の樹立に邁進する帝国臣民は老幼男女を問はず、何人も自動車の操縦を心得て置く事が国民の責務であり、武士の子女が乗馬、薙刀、銃剣術等修行を怠らなかつたと同様、重要なることと考へ、茲(ここ)に我国は勿論世界各国にも稀な『自動車と戦車の操縦』に関する著を志し、小型及普通自動車から特殊自動車戦車等の全般に亙(わた)つて其の操縦を記述したものである。
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 という調子で、自動車を運転できないものは非国民といわんばかりの導入となっています。国民が普段から自動車の運転に慣れていれば、いざ徴兵されたときに、瞬時に戦車の操縦士や戦闘機のパイロットとして活躍することもたやすいだろう、という話なのでしょうか。戦争は、人々の暮らしを隅々にまで影響をおよぼしていきます。

 とはいえ、戦争は、自動車に乗れない奴は非国民だと人々を追い立てただけではありません。戦時中日本に対するアメリカをはじめとする各国の輸出制限や禁止によって、自動車の原料や燃料が不足していきました。そこで当時の日本は民間用の自動車の製造を制限するようになったのです。これでは国民だろうと非国民だろうと、普段から自動車に乗れないではありませんか! 軍事目的の産業が、一面で国家の経済を回す力があるとしても、戦争は結局のところ、自動車の運転を進めながら、民間用の自動車の製造は制限するというような形で、ちぐはぐな事態を招いてしまいます。こうした矛盾が生じたことは、戦争の教訓ではないでしょうか。

宮本晃男

 また、自動車は多くの部品の複雑な組み合わせによって成り立っています。自動車の壊し方は何通りもありますが、それが支障なく走る組み合わせは一つしかありません。人々の暮らしや、国家あるいは世界の経済も、自動車と同様に多くの要素が複雑に交わることで成り立っています。自動車の仕組みを学び、その複雑性に心を奪われたなら、戦争を支えるためではなく、人々の暮らしを豊かにするためにその技術や知識を用いるべきではないでしょうか。もっともこの程度の教訓など、戦後日本の技術者であれば常識であったのかもしれません。戦争のために用いた自身の能力を、戦後は経済発展のために使おうとしたはずで、本書の著者宮本晃男もその一人なのかもしれません。ただそうなると、戦時中の経験をさっぱりと清算するのではなく、彼ら技術者らはそれを引き継いで経済発展を成し遂げた、という見方もできます。戦争協力とその後の高度成長の対比だけでなく、両者の微妙な関係に思いをめぐらすことが、戦争と平和について考えるための第一歩となるのではないでしょうか。

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小野坂


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