井町勇『航空機の負荷と所要強度』(山海堂出版部、1944年)~数学と工学はパイロットの生死と向き合う

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 先日来、戦争に関する書籍を紹介してきました。前回は、宮本晃男『自動車と戦車の操縦』(育生社弘道閣、1942年)を取り上げ、戦時日本の自動車をめぐる事情に若干ふれました。今回は、航空機に関する本が入荷しましたので、それを紹介します。

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井町勇
井町勇

 井町勇『航空機の負荷と所要強度』(山海堂出版部、1944年)です。著者の井町勇は、名古屋帝国大学教授で、軍用機の設計者として知られた人物です。ただ、それ以上のことは詳しくはわからなかったのですが、最近、以下の記事が発表されました。2021年5月10日の時事通信に掲載された、「『B29を迎撃せよ』幻の軍用機研究所を追う スペースジェット開発の舞台に消えた戦時組織」という歴史を扱った記事です(※)。この記事は、戦時期に軍用機開発を担っていたはずにもかかわらず、その実態が知られてこなかった「名古屋航空研究所」の足跡をたどったものです。この「名古屋航空研究所」との関係で井町勇も同記事において、「メーカーからは、川崎航空機で多くの軍用機を設計した井町勇技師のほか、三菱重工業名古屋航空機製作所、愛知航空機、中島飛行機などの技師が研究員として参加していた」という形で登場します。

https://www.jiji.com/jc/v4?id=20210507spacejet0001

 なお時事通信の記事は、國學院大學図書館所蔵の「井上匡四郎文書」を活用したとのことです。井上匡四郎は、時事通信の記事で書かれている通り、「海軍政務次官や鉄道相を歴任後、「技術院」の初代総裁を務めた」人物で、戦前の日本の科学技術政策の担い手の一人でした。井上匡四郎については、冨塚一彦「『井上匡四郎』文書にみる政治家井上匡四郎」『國學院大學紀要』第4号(1992年3月)という史料紹介論文があります(※)。ここでは、科学技術と政治との関係を考える上で貴重な史料が取り上げられています。井町勇については詳しいことは述べられませんでしたが、今回のブログ作成に際して、井上匡四郎という思わぬ大物の登場に驚いています。

https://kaiser.kokugakuin.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=v3search_view_main_init&block_id=296&direct_target=catdbl&direct_key=%2554%2543%2530%2531%2535%2535%2536%2538%2534%2533&lang=japanese#catdbl-TC01556843

 さて、井町勇による『航空機の負荷と所要強度』は、以下の画像の通りで、数学および工学の書というべきでしょうか。

 とはいえ、何やら難しそうな数式や図形が並んでるからといって、本書が空理空論であるとはいえません。井町は軍用機の設計、それも機体にかかる負荷と格闘し、どれほどの強度が必要なのかを解明しようとしているからです。序文にも実際の経験を無視した「科学」ではあってはならないとの戒めが看取されます。何より機体の破壊を防ぐことが、井町の学問に課せられた課題であったのです。

井町勇

 当然ながら、そこでの数学、工学の応用は、パイロットの命を守ることもあれば、敵のパイロットを殺すことにもつながります。命の現実に数学と物理学を通して向き合った井町勇とは、どのような人物だったのでしょうか。それほどの人物にしてみれば、日本がアメリカとの戦争をで勝つことなど、原理的にも物理的にも不可能であることぐらいわかっていたようにも思われます。できることなら、彼のことをより詳しく紹介したいと考えています。

 井町勇について、また新たなことがわかりましたら、このブログでも取り上げたいと思います。

小野坂


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