戦前のカタログが入荷しました
今回は先日お店の倉庫から見つかりました、ウェスティングハウスのカタログのご紹介です。
ウェスティングハウス社は19世紀の後半、エジソンと同時代の発明家、ジョージ・ウェスティングハウスがその発明を事業化したのが始まりだそうです。
エジソンといえば「電気」、そしてライバルのウェスティングハウスは「Westinghouse Electric Corporation」こちらも電気の会社だったわけです。小学生ならばみんな読むであろうエジソンの伝記漫画にも、電気がついたのを喜んでいた場面があったことを思い出します。
銀座高田商会は1897年にウェスティングハウス社の日本代理店になったそうです。当時の高田商会は兵器機械の輸入販売では業界トップ。1894年の日清戦争では軍需物資を扱い巨額の利益をあげ、97年にはあの八幡製鉄所建設の際の設備を納入するなどイケイケの状態です。
だからこそでしょうか、もう一度カタログを見てみると実に出来が良いのです。
どことなくですが、この表紙絵からもそういった上昇気流のようなものが感じられなくもありません。
兵器機械商社としてはトップクラスだった高田商会が総合商社として業容を拡大していくのはちょうどこの頃だということからも、家電の輸入販売は新たな挑戦だったのだと思います。やはり感じてしかるべきでしたね、この燃え上がる赤い炎を。
この表紙の背景は炎という解釈で良いのでしょうか。いや、解釈は見た人の自由ですよね。
ぺらりと1枚中を開くと右手には『ジユニオル型電気料理窯』が大きく出てきます。表紙の1行目「Electrical Appliances & Ranges」という表記でレンジもアプライアンス(器具)に含めまれるだろうよと感じてしまいましたが、そうじゃなかったのです。「Ranges」とはいわゆる電子レンジのことではなく、「火口(ひぐち)の付いた、(天火のある)料理台」、つまりこの可愛らしい足つきコンロ兼オーブンシステムのことなのでしょう。しかも脚が猫脚です。猫脚家具について詳しくないのですが、この重力を感じさせないところに、ル・コルビジェ的な造形力を感じます。
ル・コルビジェは確かピロティで重力に逆らうのだというような建築をしていたと思います。実際重厚なコンロやオーブンが乗っているため浮遊感を楽しめるであろう逸品かと思います。さらに上にタイマーがちょこんと乗っています。付属品欄に記載されている「時計仕掛自働スイッチ」でしょうか。これも含め絶妙なバランス感です。「定価」欄を見てみると白エナメルのほうが黒色より200円も高いのに驚きます。でもたしかにどうせジユニオル型を買うならやっぱり白エナメルですよね。
90年代気分でもう少し見ていきましょう。と言っても1890年代なのです。しかしムードの流行というのは回るものでして、始めに「電気」というキーワードが出てきて、実際にこのカタログには電気製品ばかりです。
どちらかというと1990年代のカルチャーの方が当然親しみがある筆者ですが、「電気」というワードにはなぜか反応してしまいます。
90年代渋谷系音楽の筆頭ともいえるコーネリアスは雷のような電気マークをよく使用していますし、電気グルーブも「電気」です。あのバナナマンがカッコいいと思うコンビ名として挙げた「エレキコミック」、「エレキ=電気」です。僕はどれもたしかいにクールさみたいなものが感じられます。ポケモンでも電気タイプが妙に好きでした。
ただの好みかもしれませんが、なんとなくこういう感覚は分かる人もいるかと思います。
僕が言いたいのは「本当にクールなものは当時のような在り方でクールでなくても、クールであり続けるだろう」ということです。
僕がアプライアンス部門で一番クールだと思うのは「電気コップ湯沸器」ですね。このなんともおっかない実験器具のような、これが日常に馴染んでいた時代の風景が観てみたくなりました。
裏表紙も抜かりありません。
物作り、ひいては一つひとつの仕事というものを考えさられる貴重な冊子でした。
このような戦前のカタログなど古い冊子がございましたら、くまねこ堂へ御一報ください。この手の物は捨ててしまわれるかたも多く、店主はなんどか資源ゴミに出す予定の紙の束から救い出したとのことです。
くまねこ堂では、古本はもちろん切手や古銭、古道具、古いおもちゃ、美術品など幅広いジャンルのお品物を取り扱っております。
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小野