日露戦争を記念した写真帖、絵葉書などをお譲りいただきました!~その4(結)日露戦争を偲んで「金州駅ヨリ南山ヲ望ム」

 先日、東京都町田市木曽東での即日出張買取にうかがわせていただきました。学術書、専門書、格闘技、プロレスDVDなどをお譲りいただきました!ありがとうございます!
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 これまで3回にわたり、日露戦争30周年を記念した写真帖、それとともにお譲りいただきました絵葉書について、昭和戦前期(1930年代)の観光産業の発展との関連でご紹介してまいりました。前回は、1910年5月14日から10月31日にかけてロンドンで開催された、日英博覧会を記念して発行された絵葉書を取り上げました。

※日露戦争を記念した写真帖、絵葉書などをお譲りいただきました!~その3 帝国日本にとっての2つの1910年(くまねこ堂骨董ブログ、2020年5月9日)
https://www.kumaneko-antique.com/16050/

 その1、その2につきましては、下記リンクをご覧ください。

※日露戦争を記念した写真帖、絵葉書などをお譲りいただきました!~その1 昭和戦前期の観光業の隆盛と戦跡めぐり(くまねこ堂骨董ブログ、2020年5月4日)
https://www.kumaneko-antique.com/15955/

※日露戦争を記念した写真帖、絵葉書などをお譲りいただきました!~その2 絵葉書になる歴史上の人物とはどんな人物?(くまねこ堂骨董ブログ、2020年5月6日)
https://www.kumaneko-antique.com/16034/

 これまで述べてきたように、昭和戦前期、とくに1930年代半ばの日本は、外地の朝鮮や満州への旅行が盛んでした。そして、そうした旅行先に選ばれたのが、日清・日露戦争の戦勝記念史跡でした。

 お譲りいただいたものの中には、1930年代半ばと思われる遼東半島の大連の様子を写した写真があります。大連は、1895年の日清戦争の講和に際しての三国干渉の結果、ロシアの租借地となりました。その後、1905年の日露戦争の講和により、この地は日本の租借地となり、日露戦争の戦果を象徴するものの一つに数えられました。

 この大連旅行に際しての写真も、ブログその1で述べたような、日露戦争戦勝30周年記念と外地旅行の振興といった歴史的背景から無縁ではないように思われます。

 キャプションがついている写真ということでは、以下のものがありました。

大連アルバム

 上掲の写真は、下部に「大連旧露国寺院」と記載されています。1930年代半ばの旅行案内などを調べれば、これと同じロシア式寺院が紹介されているかもしれません。

 次の写真は、おそらく日露戦争の激戦を偲んで撮影されたものだと思われます。

金州駅と南山

 この写真の下部には、「金州駅ヨリ南山ヲ望ム」とあります。 南山とは、遼東半島の金州城南近に位置する南山のことですが、日露戦争の戦場でした。この南山での戦いは、要塞化された陣地に立て籠もったロシア軍による機銃掃射に対し、日本軍が三度の突撃の末に南山を占拠するという激戦になりました。日本軍は勝利したとはいえ、多大な損害を被りました。ドラマや小説でも取り上げられてきましたが、第三軍の司令官・乃木希典の息子で第二軍に所属していた乃木勝典は、この戦いで戦死しました。

 ちなみに、南山の戦いの日露両軍の配置を記録した地図によると、金州停車場付近に布陣した日本軍が東から西へ、南山のロシア軍陣地に向かって進軍していったことがわかります。そうすると上掲の写真の方向は、日本軍の進行方向と一致していることになります。このように日露戦争の南山の戦いの経緯や、写真が撮られた方向をあわせて考えると、この写真には日露戦争を偲ぶ意図があるというのも、あながち間違いではないかもしれません。

※明治卅七八年日露戦史. 第1巻 附図十二 南山附近第二軍之戦闘(五月二十六日)
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/774357/57?tocOpened=1

 ところで、1935年に日露戦争勝利30周年を祝った日本は、1937年以降中国との事実上の全面戦争に突入します。当時の中国の首都南京を日本軍は占領しますが、その後の掃討戦(に名を借りた略奪・強姦など)は凄惨を極めました。その様子は、在外公館員の避難もあり公的記録に残らない中、現地のキリスト宣教師や国際的なキリスト教団体の活動家の記録に残されています。

 驚くべきは、日露戦争勝利30周年を祝った観光と同じように、中国の首都南京陥落を祝った南京旅行のガイドブックや絵葉書セットが発行されていたという事実です。この点については、下記リンクの、近代日本史研究者のポートランド州立大学准教授・ケネス・ルオフ氏による学習院大学での講演で教えられました。

※ケネス・ルオフ「移動する帝国―絵葉書が語る大日本帝国―」『学習院大学国際研究教育機構研究年報』第2号(2016年)、4-21頁
https://bit.ly/2VJKoU4

 戦争の勝利を記念することと、観光産業の振興という結びつきに関して、30年前の日露戦争を偲ぶ、ということなら正直にいって想像の範囲ではありました。しかし、日中戦争の場合は、現在進行形の戦争が観光コンテンツになっていました。この事実はどのように受け止めればいいのでしょうか。事の重大さに加え、あまり事実関係が解明されていないということもあわせ、この問題は今後の日本史研究の課題といえましょう。なお、これに関連して、戦時郵便に関するご資料もお譲りいただいたことがございます。下記リンクをご覧くだされば幸いです。

※郵政官僚の従軍アルバムのご紹介その2 日中戦争期の野戦郵便局の写真がございました!(くまねこ堂骨董ブログ、2020年3月11日)
https://www.kumaneko-antique.com/15537/

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小野坂


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