昭和戦前期の日本内地・朝鮮・満州・中国の地図が入荷しました!~その4 日中戦争の最中に作製された「保定市街要図」と「第一野戦測量隊」

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 昭和戦前期の満州を始めとした外地の地図、そしてそれらを満州での滞在記録とともに残された陸軍の第一師団技師~関東軍経理部長であったある技師(便宜上、〇〇技師と呼ばせていただいております)の方について、これまでの下記ブログで紹介してまいりました。

※昭和戦前期の日本内地・朝鮮・満州・中国の地図が入荷しました!~その1 謎深き戦争と地図の関係の解明の手がかりとして
https://www.kumaneko-antique.com/16456/

※昭和戦前期の日本内地・朝鮮・満州・中国の地図が入荷しました!~その2 陸軍第一師団の陸軍技師による1933年5月の満州視察記録と奉天軍閥・張作相邸の図面
https://www.kumaneko-antique.com/16465/

※昭和戦前期の日本内地・朝鮮・満州・中国の地図が入荷しました!~その3 1933年5月の満州視察に続く1934年3月からの関東軍経理部長時代
https://www.kumaneko-antique.com/16470/

 ○○技師が満州で勤務していたのは、まさに満州事変と日中戦争との間の時期の、1933年5月から1937年4月でした。満州事変以降の日中関係の悪化は、緊迫しつつも小康状態をつくり出そうとした両国外交当局者の努力もあり、決定的な破局には陥ってはいませんでした。しかし、1937年7月7日の北京郊外の盧溝橋で放たれた一発の銃声が、いくつかの偶然や日本政府首脳の慎重さを欠く判断と重なってしまい、日中間の全面戦争を招いてしまいました。

 それゆえ、地図製作の歴史も、舞台は戦場となった中国に移ります。この問題を考える上で大変興味深い一枚の地図がございましたので、今回はこれを取り上げます。「保定市街要図」という1938年3月付の市街図です。

日中戦争期の地図

 「保定」というのは、当時の河北省の省都だった都市です。ここで日中戦争の初期の1937年9月24日、日中全面戦争を予感させる大規模な衝突が発生しました。その後も中国側の抵抗は続きます。とりわけ、保定郊外では中国共産党を中心としたゲリラとの戦闘で、日本軍は泥沼にはまっていきます。

 つまり、1938年3月付の「保定市街要図」の作製は、そのような緊迫した情勢の中で進められたのだと考えられます。

 ところで、この「保定市街要図」は外地、なかでも戦地における地図作製の歴史を考える上での重要なキーワードが記載されていることに気づきました。たとえば、表題の下に次のような文言が記されています。

日中戦争期の地図

 上掲の画像のように、備考として、「本要図ハ昭和十〔1935〕年撮影空中写真ヲ基礎トシ保定市街図ヲ参考トシ作成ス」と注記があります。日本での空中撮影による地図作製の本格的な導入はやはり、軍事行動と深くかかわっていました。1927、1928年に3度にわたって行われた、山東出兵という中国における日本人の保護を名目とした軍事行動です。

 だとすると、満州国建国の過程や、その後での馬賊の構想などを通じて、満州において盛んに空撮写真が撮られていたとしても不思議ではないでしょう。とするなら、これまで紹介してきた一連の地図や記録を残された〇〇技師は、1934年から1937年まで関東軍経理部長だったわけですから、満州での空撮に何らかの関係があったのかもしれません。ただ、この満州にかかわる話は、現在の研究でも未解明の部分が多いため、憶測の域を出ません。

日中戦争期の地図

 もう一つ重要なキーワードがあります。この地図を印刷したのは、「第一野戦測量隊」と記載されています。この野戦測量隊の実態というのも、研究上で注目されています。「測量隊」と呼称されているわけですが、日中戦争の最前線における「測量」の重要な任務は、中国側が作製した地図の押収であったという見方もあります。この問題は、今後の詳細な検証が待たれるところです。

※その1で挙げた、小林茂『外邦図――帝国日本のアジア地図』(中公新書、2011年)を参照しました。

 以上のように、戦地での地図作製を検証する上で重要な、「空中撮影」と「野戦測量隊」とが、今回ご紹介しました地図で共演しているのです。その意味でこの地図は、ジグソーパズルのわりと重要な1ピースなのかもしれません。

 なお、本ブログでは、先般から申し上げております通り、ひとまず史料の出所の詳細は公開しないとの判断をいたしました。詳細につきましては、お電話またはメールフォーム、LINEにて、お気軽にお問い合わせ下さいませ。可能な限りお答えしてまいりますので、何卒よろしくお願い申し上げます。

小野坂


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